お使いのブラウザはサポート対象外です。推奨のブラウザをご利用ください。

SettsuニュースSettsuニュース

セッツ 洗浄剤の開発から特化した消毒・除菌技術開発の歴史

新型コロナウイルスの感染予防として消毒・除菌が強く意識されているなか、大きく飛躍を遂げるメーカーが大阪府堺市にある。創業130年以上の歴史を誇るセッツ株式会社だ。

セッツ株式会社本社事業場

もともとは植物油を製造する製油会社として創業した同社は、日清オイリオグループ(株)の完全子会社となった2017年、事業構造を転換。現在は業務用洗剤やアルコール製剤などを取り扱う衛生管理事業を中核に据えている。

2011年に発売された同社の除菌・ウイルス除去剤は、高い衛生管理が求められる食品工場や飲食店などで用いられ、コロナ禍では食品業界だけでなく幅広い業界から引き合いを受けているという。

明治22年に製油メーカーとして創業しながら、衛生管理事業を主軸に自社製品を展開するに至った同社。

その変遷を振り返ると、太平洋戦争の終戦後まもなく国産化に成功した合成洗剤の開発から消毒・除菌技術開発の歴史が見えてきた。

高度経済成長期に生まれた合成洗剤

昭和初期に現在の合成洗剤の主成分となる界面活性剤「アルキルベンゼンスルホン酸塩」の研究をいち早く国内でスタートさせたセッツ(株)の前身「攝津製油(株)」。

攝津製油株式会社時代の本社事業場

衛生管理事業の展開をするようになったのは、日清オイリオグループ(株)との業務提携が始まった昭和34年頃だが、昭和8年に粉末石鹸を製造し、昭和24年には全国に先駆けて石鹸より洗浄力の優れた合成洗剤(ソープレスソープ)の国産化を進め、衛生管理事業として本格的な製造販売を行っていた。

同社社長の大前敏和氏はセッツが石鹸に代わる合成洗剤のはしりとなる製品開発を行えた背景についてこう語る。

大前敏和社長

「油と洗剤には密接な関係があります。結局、水と油の間を取り持ち、汚れである油を水に溶かして除去するのが洗剤ですからね。当然、食用植物油を使えば油汚れを洗わないといけないわけで、そういう意味では食品業界との親和性も高く、油と洗剤は切っても切り離せない関係があるんです」(大前氏)

高度経済成長期の昭和40年代に入ると、生活環境の変化や人々の衛生意識が高まるにつれ、従来の石鹸より洗浄力が高く、幅広い汚れに効果を発揮する合成洗剤が家庭にも広く普及する。その後、生分解性が高く、環境負荷の低い合成洗剤が主流となっていく。

海外からの輸入品だけでなく、国内メーカーも合成洗剤の製品を発売するようになるなか、昭和48年に同社は花王石鹸(現・花王株式会社)と業務提携を開始。

食用油を取り扱う食品問屋が主な取引先だったこともあり、特に食品工場などで用いられる業務用洗剤の領域で自社製品の販路を拡大させた。

「最終的には飲食店や食品工場などの食品業界で使っていただける洗浄剤に特化していきましたが、昭和40年代当時の紆余曲折の中にはレジャーブームに乗じて、サンオイルや日焼け止めなどの化粧品、シャンプーやリンスを製造・販売をしたこともありますね」(大前氏)

かつて販売していたサンオイル

アルコール除菌の習慣は2000年代から

キッチン周りの洗浄剤や除菌剤を扱うメーカーは国内外で多数存在し、一般的な洗浄剤やアルコール製剤などの除菌剤は差別化しにくいことなどもあって、レッドオーシャンとも言われている。

食用植物油を製造してきた食品メーカーとしてのルーツを持つセッツは、そうした状況の中でも安全・安心と科学的な知見を重視した製品開発でユーザーを広げてきた。

セッツ株式会社営業統括部長の青木氏①

「私が入社した頃は食器や換気扇、レンジなどキッチン周りの油汚れなどを落とす洗剤がメインで、食品に使用される食品添加物のアルコール製剤は販売していても、除菌やウイルス除去効果のエビデンスを持ち合わせたアルコール製剤としては販売していませんでした。1996年のO-157の流行なども経て、すでに食品衛生の場では手洗いは常識になっていましたが、当時の除菌剤はキッチンブリーチと呼ばれる次亜塩素酸ナトリウムの除菌漂白剤が主流でしたね」とは、営業統括部長の青木氏。

昭和62年に入社した青木氏は同営業として長年、ユーザーの近くで市場の変化を見続けてきた。

「当社がアルコール除菌剤を手がけるようになったのは、工業用アルコールの自由化で民間メーカーがその製造・販売に参入しやすくなった15年ほど前です」

「当時からアルコール製剤を除菌剤として使う習慣が少しずつ食品業界で広がりつつあったものの、主な納品先は食品工場に限られていました」(青木氏)

一口に食中毒といってもさまざまな原因があるが、2000年代になるとSRSV(小型球形ウイルス)と呼ばれていたノロウイルスによる食中毒の発生件数が急増 注1

食中毒発生件数のグラフ

世間的にも注目されるようになると、2011年にアルコールを使用したノロウイルス対策技術を確立した。

アルコールに添加されているブドウ種子抽出物は「殺ノロウイルス組成物」として特許を取得。それまでウイルス対策に使用されてきた次亜塩素酸ナトリウムの課題を解決し、安全性が高く使いやすい技術として支持を広げる。

セッツ株式会社営業統括部長の青木氏②

「SARSや鳥インフルエンザなど、細菌やウイルスが流行するたびにアルコール除菌の需要は段階的に高まってきました。コロナ禍以降はスポーツ施設や遊技場、オフィスビルなど、食品業界以外のさまざまなお客様から消毒・除菌剤や使用方法について問い合わせが非常に増えています」(青木氏)

“目に見えない安心”に必要なのは「根拠」

現在、セッツは衛生管理事業のメーカーとして、食品を取り扱う事業者のみならず、幅広い生活シーンでの衛生管理に資する製品の開発・販売に注力する。

昨年10月にプレスリリースを行ったマルチ機能性洗浄・除菌技術もそんな新領域へアプローチするセッツ独自の技術だ。

「アルコールを極力抑え、ウイルス対策に有効とされる界面活性剤の配合検討を重ね、十分なウイルス除去効果を獲得しました。アルコールに弱いアクリルパーテーションやオフィスのデスクやテーブル、スマホのタッチパネルなどにも安心して使える製品です。洗浄・除菌だけでなく、二度拭き不要で拭き跡が残りにくいなど細かい課題にも対応しており、着実に販売量も増えています」(青木氏)

これらの開発は大阪府立大学との連携で実現。

実際の新型コロナウイルスで効果検証を行い、研究成果をまとめた論文は学術雑誌にも掲載された。

「昨年4月の社名変更と合わせ、企業のタグラインも現在の『キレイと安心の、その先へ。』に変更しました。目に見えない菌やウイルスに対抗する以上、“安心”には根拠が必要で、衛生管理事業に取り組むメーカーがバックボーンに持つべきは技術とエビデンスに他なりません」

「単に製品を製造・販売するだけでなく、具体的にどんな研究やデータを元に開発された製品なのか、学会発表や学術論文、特許出願・取得など様々な形で世の中にきちんとお示しする必要があると考えています」(大前氏)

セッツは関連法規を遵守しながら、こうした研究成果や技術を課題解決に活かすことにより、お客様との信頼関係を深めている。

「コロナ禍によって、長年にわたり培ってきた技術力や知見が、生活のあらゆる場面で役に立てられると気づかされました。まだまだ衛生管理について知らない人も多いなか、食の環境での衛生管理を突き詰めてきた我々だからこそできることがある。新規のお客様に営業していても大きな手応えを感じています」

「アフターコロナがどのような世の中になるかは未知数ですが、その時その時に世の中にお役に立つ技術と製品で存在価値のある企業として認めていただけるよう突き進みたい」(大前氏)

セッツの益々の躍進に期待と楽しみが湧き上がってくる。



注1 厚生労働省ホームページ
   https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html
   https://www.mhlw.go.jp/content/nenji_2019.xls よりグラフ作成


〈取材・文 伊藤綾〉