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“消毒”と“除菌”の違いとは?低い日本人の「消毒リテラシー」

新型コロナウイルスの感染予防として消毒や除菌が強く意識されているなか、大きく飛躍を遂げるメーカーが大阪府堺市にある。

創業130年以上の歴史を誇るセッツ株式会社だ。

セッツ株式会社本社事業場

もともとは植物油を製造する製油会社として創業した同社は、日清オイリオグループ(株)の完全子会社となった2017年、事業構造を転換。現在は業務用洗剤やアルコール製剤などを取り扱う衛生管理事業を中核に据えている。

2011年に発売された同社の除菌・ウイルス除去剤は、高い衛生管理が求められる食品工場や飲食店などで用いられてきており、コロナ禍では食品業界だけでなく幅広い業界から引き合いを受けているという。

エビデンスに基づく製品開発に注力する同社だが、営業推進グループリーダーとして商品企画などに従事する田處(たどころ)氏は、「日本人の“消毒リテラシー”が追いついていない側面もある」と指摘する。キレイ好きで知られているはずの日本人だが、その真意を聞いた。

最適なアルコール濃度はターゲット次第

田處氏

「海外と比べても、“目に見える”汚れに対する日本人の衛生意識が高いのは確かだと思います。ただ、感染症の予防として従来の手洗い、うがいに加え、飲食店などでのアルコール除菌やアクリルパーテーションの設置が広く普及し、マスク着用が定着しましたが、その運用や管理への理解はあまり進んでいません。アルコール製剤はどんな対象物にでも使用できるという間違ったイメージがあり、まだまだ表面的な取り組みという印象も受けます」(田處氏)

この1年半ほどでハード面の整備が進み、感染予防の習慣はすっかり社会に根付いたようにも思える。

しかし、同時にパーテーションの汚れが気になった経験や、取り外したマスクの取り扱いなどに不安を覚えた経験をした人も少なくないだろう。

あまり知られていないが、アクリルパーテーションとアルコールとの相性は悪く、アルコール製剤で除菌すると白化して割れてしまうという。

同社の経営企画室長・梅澤氏も「衛生に対する意識は漠然と共有はされているものの、実際のリテラシーとしては伴っていないところもある」と語る。

「例えば、コロナ禍ではウイルスの除菌 注1 にアルコールが全面に打ち出されていますが、アルコールも万能ではありません。対象となる菌・ウイルスやアルコール濃度によって、効果を十分に得られないケースは当然あります。除菌に多用される、いわゆる漂白用ブリーチと言われる次亜塩素酸ナトリウムも、希釈の際にドアノブなどの除菌には200~300ppmの塩素濃度で十分ですが、嘔吐物など有機物を含む場合には1,000ppm程度にする必要があることが官庁や民間サイトの情報でも報告されています 注2 。しかし、大半の方はこうした内容を理解せずにご使用しているのが実情ではないでしょうか」(梅澤氏)

アルコールについても濃度が高いほど、よく効きそうなイメージもあるが、ターゲットとなる細菌やウイルスごとに適正な濃度があるという。

「一般的な細菌に対しては、濃度が70~80vol%程度のアルコールが最も効果が高く、アルコール100%だと逆に効きにくいんです 注3 。理由としては瞬時に蒸発するため、薬剤が菌の内部まで十分に浸透しないからだと言われています」

「もっとも100%近い高濃度アルコールは、実験用の試薬扱いで市場にあまり出回っておらず、商業施設などで使われるアルコールに関しては、むしろ濃度が低すぎる問題のほうが目立っている印象もあります。「アルコール製剤を何倍に希釈するのか」との問い合わせをいただくことがあり、個人的な感覚として、商業施設に設置されているアルコールを使った際に揮発性が少なくて濃度が低いと感じた経験はありますね」(梅澤氏)

厚労省は60vol%以上のアルコールであれば新型コロナウイルスの消毒に有効としている 注4 。これは従来から食品工場など食品業界で使用されてきたアルコールで対応できる基準だ。

「いわゆる食品業界で使用される汎用アルコールの濃度は危険物では一般に75vol%~84vol%、非危険物の範囲だと67vol%前後です。当社では、冬に感染のピークをむかえるノロウイルスなどのアルコールが効きにくいウイルスを、低濃度アルコールで不活化する技術があり、新型コロナウイルスについてもいち早くエビデンスを取るなど、技術の差別化をはかっています」(田處氏)

除菌と殺菌・消毒の違い、わかりますか?

クリーンベンチ

ノロウイルスのようにエンベロープの無いウイルスにはアルコールが効きにくいため 注5 、その消毒には次亜塩素酸ナトリウムによる対策が推奨されてきた。セッツではアルコールにブドウ種子エキスを添加し、実際のノロウイルスを使用してアルコールに対する効果を長年に渡って検証し、顧客の課題に対して正面から向き合っている。

“消毒リテラシー”の難解さの背景には、こうした日進月歩の研究・開発の成果に加え、まさにリテラシーという言葉通り、「滅菌」や「殺菌」、「消毒」や「除菌」などの用語の難しさもあるだろう。

「まず、滅菌は完全に菌やウイルスをゼロにする意味合いで、手術道具や器具などを対象として医療現場や研究機関などでよく使われる言葉です。殺菌は菌やウイルスを殺すことであり、その中でも消毒は人体に有害な菌やウイルスを死滅させて、人に対する害をなくすことを指します」(田處氏)

「学術的には不活化という言葉も使われますね。殺菌、消毒といった言葉はインパクトが大きいため、製品のパッケージに表示したいというお客様も多くいらっしゃいますが、薬機法の対象となる製品にしか使用できないため、雑貨品などにはエビデンスがあっても表示は困難です。除菌は菌やウイルスの数を減らすこと 注1 を意味し、極端な言い方をすれば、目に見える汚れなどと一緒に菌を物理的に拭き取っても除菌にあたり、雑貨等への表示が可能です」(梅澤氏)

コロナ禍では60vol%以上のアルコール製剤は、医薬品や医薬部外品ではないが、消毒用エタノールの代替品として、手指消毒に使用することが可能である 注4

コロナ対策として、セッツではこの条件を満たした製品が好評を得ている。

しかし、一般的には事業者は医薬品・医薬部外品の承認がなければ、手指消毒用のアルコールとして販売できない。

「消毒リテラシーを高めるためには」

梅澤氏

「例えば、『汚れているものはしっかり洗った後でアルコール製剤を使って殺菌すること』『危険なガスが発生することがあるので、次亜塩素酸ナトリウムはアルコール製剤と一緒に使用しないこと』『アクリル板にはアルコール製剤を使用しないこと』など、重要なのは使い方です。洗浄力不足で、かえって汚れや菌やウイルスを広げてしまうこともあり、洗浄剤を使用することがより衛生的なケースがあります。使い方を誤れば医薬品・医薬部外品であっても十分な効果が得られません」(田處氏)

「本当に基本的なことですが、個人の“消毒リテラシー”を高めるために大切なことは、パッケージや説明書を読み、製品を理解して適正な使用方法を守ることです。対象の菌やウイルス、消毒・除菌する素材と薬剤の相性などもあります。洗浄剤や除菌剤を生産するメーカーとして、我々はより安全で使いやすい製品開発を進め、消毒リテラシーを高める活動を担っていきたいと思っています」(梅澤氏)

梅澤氏と田處氏

菌やウイルスは人間の目に見えない存在だけに、確かな技術力に裏打ちされた製品で対策することも重要になる。

次回はセッツの技術を結集した独自の除菌・ウイルス除去剤の開発秘話と人気の理由を深掘りしていこう。



注1 厚生労働省ホームページ
   https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html
注2 目黒区ホームページ 次亜塩素酸ナトリウム液の作り方
   https://www.city.meguro.tokyo.jp/smph/kurashi/hoken_eisei/shinryo/yobo/jiaensosannatoriumuekinotukurika.html
   広島市ホームページ 消毒液の作り方と使用上の注意(次亜塩素酸ナトリウム)
   https://www.city.hiroshima.lg.jp/site/infectious-disease-joho/332.html
注3 引用文献
   Price, P. B.:Arch.Surg., 38, 528-542(1938)
注4 厚生労働省 事務連絡
   https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000648057.pdf
   https://www.mhlw.go.jp/content/000789597.pdf
注5 引用文献
   Doultree, J. C., Druce, J. D., Brich, C. J., Bowden, D. S., Marshall, J. A.:
   Inactivation of feline calicivirus, a Norwalk virus surrogate. J. Hosp. Infect., 41. 51-57 (1999).


〈取材・文 伊藤綾〉