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“国民総消毒時代”に見えた大阪老舗企業の新たな戦略

外出先での手指消毒などが当たり前になったコロナパンデミックの時代。

アルコール製剤などの衛生管理製剤の需要は拡大し、食品工場や外食チェーン店に留まらない幅広いニーズが生まれたのは周知の事実だろう。

そんな時代に、大きく飛躍を遂げるメーカーが大阪府堺市にあった。

植物油を製造する製油会社として大阪で創業したセッツ株式会社ーー。

セッツ株式会社本社事業場

日清オイリオグループ(株)の完全子会社となった2017年、業務用洗剤やアルコール製剤などを取り扱う衛生管理事業を中核に据え、事業構造の転換を図ってきた同社。

創業130年以上を誇るセッツはいかにして歴史を紡いできたのか。現在、同社の代表的な除菌・ウイルス除去剤となっている「ノロVシリーズ」の誕生秘話も踏まえて同社社長の大前敏和氏と、研究開発部統括部長の佃一訓氏に話を聞いた。

昭和の激動を経て、“攝津”から“セッツ”へ

大前敏和氏

昭和60年ーー

高度経済成長期を経て、激動の昭和が終わり、日本経済がバブルに差し掛かった頃。

セッツ(株)の前身となる「攝津製油(株)」に入社した大前氏は、洗剤などの衛生管理製品の研究開発、油脂製品の品質管理に従事。同社の衛生管理製剤の製造拠点である堺工場の建設計画に携わった後、同工場長を経て2017年に社長に就任した。

「セッツは、大阪の市制が施行された明治22年、大阪の財閥関係者たちによって創業しました。当時の大阪市福島区は、菜種畑が広がっていました」(大前氏)


当時の社名は製油会社の「攝津製油(株)」。

「社名は戦国時代や江戸時代に用いられた旧国名である攝津国に由来し、現在の摂津市とは直接の関係はありませんが、広く地域社会に貢献する思いが込められています」(大前氏)

セッツ株式会社本社事業場

当初から油会社として大きく発展し、大阪の住吉大社などにも菜種油を献上していたという。

しかし、昭和初期には世界恐慌で業績が悪化。

昭和34年に現在の親会社である日清オイリオグループ(株)が資本参加することとなった。

合成洗剤の原型であるアルキルベンゼンスルホン酸塩の研究を、日本で初めて行ったことが、現在まで続く同社の衛生管理事業の始まりだ。

コロナ禍の現在では当然とも言える衛生対策に、セッツはすでに昭和中期から取り組んでいたのである。

「昭和48年には花王石鹸(現 花王(株))が資本参加したことで洗剤事業を拡大させるようになりました。堺工場ができて18年が経った現在、油脂事業は親会社である日清オイリオグループの一員として製品の販売のみにシフトし、業務用洗剤をはじめとする衛生管理事業に注力しています」

衛生管理ビジネスを行っているメーカーの多くはケミカルから派生した会社が多い。

そんな中、セッツのように食品メーカー出身の会社は珍しい。そんな背景もあり、安全・安心の観点を重視した製品開発は同社の大きな特長となっている。

「より未来志向の会社にしていくためにも、昨年4月に創業以来続いてきた攝津製油から、現在の社名に変更しました。コロナ禍で外食産業が厳しいなか、油脂事業の落ち込み、それまで主力だった食器用洗剤の売り上げも70~80%に下がりましたが、付加価値の高いアルコール製剤などの製品が好調で、その売り上げが急増しました」

通常2~3年の製品開発を、わずか1年半で実現

こうして昭和、平成と激動の時代を生き抜いてきたセッツ。

時は令和になり、社会が大きく変化する中、新型コロナウイルスが世界を襲った。

佃一訓氏

そんな危機の時代こそ、セッツの出番だった。

2020年度、セッツの衛生管理事業の利益率向上に大きく貢献した製品が、大阪府立大学との共同研究によって2011年に誕生した「ノロVシリーズ」だ。

界面活性剤や高濃度エタノール、次亜塩素酸ナトリウムといった除菌・ウイルス除去剤が主流だが、「ユービコールノロV」は低濃度アルコールにブドウ種子エキスを添加。

従来のアルコール製剤が主な対象としてきた細菌や一般的にアルコールでは効果の無いとされる冬に感染のピークをむかえるウイルスなど幅広いウイルスに効果を発揮するのが特長だ。 注1

研究開発部で業務の指揮を統括する佃氏は、本製品の開発経緯について次のように語る。

「他社のアルコール製剤との差別化を図るなか、2010年6月に大阪府立大学でウイルス研究を行う勢戸祥介准教授と共同研究を開始し、冬にピークをむかえ食の環境を脅かすウイルスに対して学術的研究に着手しました」(佃氏)

ノロVシリーズ

食品素材のスクリーニングを行うなか、抗ウイルス効果を発揮する成分としてブドウ種子エキスを発見し、特許を取得しているという。


通常、新製品の開発は2~3年かかる。

だが、セッツではさまざまな評価法や知見を活用できたことで初代製品は約1年半で製品化に至ったという。

製品開発のスピード以外にセッツの大きな特長として、対象となる実際のウイルスを使った実験で検証している点が挙げられる。

実はウイルス対策を謳う製品のほとんどは、実際のウイルスの代わりにネコやネズミ由来の組織で培養した代替ウイルスを使って効果を検証している場合が多い。

だがーー。

「人間にしか寄生しないウイルスは培養が非常に難しく、実験にはかなりの手間と時間がかかります。一般に利用されているネコの代替ウイルスは酸に、ネズミの代替ウイルスはアルコールに弱いが、人間にしか寄生しないウイルスは酸にもアルコールにも強いので、代替ウイルスに効果があっても、必ずしも対象とするウイルスに効果があるわけではないんです」(佃氏)

“ウイルス”と一口に言うけれど

今年6月にはエタノール濃度を66vol%に引き上げ、食器などにも安心して使用できる処方の製品として、「ノロVシリーズ」の4代目となる食品添加物のアルコール製剤「ユービコールノロV66」を発売した。

「『ユービコールノロV66』は、エタノール濃度が60vol%以上であれば手指消毒用アルコールとして使用できるという、昨年4月の厚生労働省からの事務連絡 注2 を受けたことが開発の背景です」(佃氏)

佃一訓氏

「手指消毒用を全面的に謳うには薬機法に沿ったかたちで承認を得る必要があります。「ユービコールノロV66」の基本的な処方設計の考え方は従来のノロVシリーズと変わっていませんが、エタノール濃度を厚生労働省の事務連絡に合わせて高濃度にしていることが特長です」(佃氏)

昨年秋には業界内ではいち早く、ブドウ種子エキス配合のエタノール処方および、界面活性剤配合の低濃度エタノール処方が、世界的に大流行しているウイルスを99.99%以上不活化させる効果を確認し発表している。 注3

「ウイルス対策のため食品素材を添加したアルコール製剤の中でも、実際に食の環境を脅かす実際のウイルスでデータを取っている衛生管理製剤メーカーは、ほとんどありません。いま世間的に注目されているのは世界中で大流行しているウイルスとなりますが、食品産業界ではもともと食品由来で人に危害を与えるウイルスが非常に怖い存在で、一般的なアルコールではそのウイルスには効きません」(佃氏)

実は、“ウイルス”と一口に言っても、アルコールですべて除去できるわけではないのだ。

「ユービコールノロV66は非危険物のアルコール製剤で、食品添加物であり、かつ手指消毒にも使えるウイルス対策エタノールという付加価値の高さが使用者の共感を得ており、手応えを感じています」(大前氏)

コロナパンデミック以前から除菌・ウイルス除去に真摯に取り組んできた、国内消毒業界のパイオニア的存在とも言えるセッツ。

大前敏和氏

一般消費者にも役立てたい

現在、自社製品の取り扱いはBtoBがメインだが、ノロVシリーズを衛生管理事業の柱に認知を高めるべく営業活動に注力しており、大前氏は本当に使える除菌・除ウイルス剤を一般の消費者にもチャンスがあれば応えていきたいと意欲を示す。

「社長に就任してからの3年間、いかに衛生管理事業を発展させていくべきか悩む時期もありましたが、コロナ禍で幅広いニーズに気付きました。もとは植物油会社なので食品の問屋への食器用洗剤などの販売が主でしたが、現在は食品業界のルートだけではない食品以外の新領域へ進出のため、アクションを起こすタイミングだと捉えています」(大前氏)


創業以来、良質な製品を通して地域や社会への貢献を掲げてきたセッツ。

いま以上にこれほどまでに世界中で除菌・ウイルス除去に関心が寄せられる時代はないだろう。そんな“国民総消毒時代”にスポットライトが当たったセッツは、大阪から世界へ、真摯に、それでいてスピーディに飛躍していくのだろう。



注1 お知らせ(2021年6月14日)
   https://www.settsu-inc.com/news/2021/v66-1.html
注2 厚生労働省 事務連絡
   https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000648057.pdf
   https://www.mhlw.go.jp/content/000789597.pdf
注3 ニュースリリース(2020年10月1日)
   https://www.settsu-inc.com/news/uploads-pdf/20201001_norov-envelope.pdf
   https://www.settsu-inc.com/news/uploads-pdf/20201001_corowin.pdf


〈取材・文 伊藤綾〉